2019年4月1日から運送・海商に関する商法のルールが変わりました

平成30年5月18日,商法及び国際海上物品運送法の一部を改正する法律(平成30年法律第29号)が成立し(同年5月25日公布)、平成31年4月1日から施行されています。

この分野については、1899年(明治32年)に商法が制定されてから約120年間にわたり、実質的なルールの見直しがほとんど行われていませんでした。今回の改正では、①商法制定以来の約120年間の社会経済情勢の変化への対応を図るなどのために、運送・海商に関する商法のルールを実質的に見直すとともに、②利用者に分かりやすい商法とするために、これまで片仮名文語体で表記されていた規定を全て現代用語化するという改正を行っています。

改正の概要

改正の概要は次のとおりです(パンフレット「商法改正運送・海商 2019年4月1日から、運送・海商に関する商法のルールが変わります。」より)

120年間の社会経済情勢の変化への対応(実質的なルールの改正)

1 運送全般についての共通ルールの新設

現代の社会では、航空運送や複合運送(陸上運送・海上運送・航空運送を組み合わせた運送)が一般的に行われています。

しかし、明治時代に制定された商法では、その当時に既に存在していた陸上運送や海上運送に関するルールを個別に定めるにとどまり、航空運送や複合運送に関するルールは定められていませんでした。今回の改正では、現代の社会における運送の実情を踏まえ、陸上運送・海上運送・航空運送・複合運送の全てに適用される運送全般についての共通ルールを新設するとともに、複合運送に関する特別なルールを新設しており、具体的には以下のとおりです。

(1)航空運送や複合運送についての商法のルールの適用

商法では、特に物の運送(物品運送)を中心に、運送事業者が大量の荷物を反復して取り扱うという運送の特殊性を考慮して、運送事業者の保護や法律関係の早期の画一的処理を図るため、多くの特別な規定が置かれています。例えば、段ボールで梱包された荷物が届いたが、開けてみたらその中身が壊れていたという場合には、2週間以内に運送事業者に対してクレームを発出しなければ、損害賠償請求権が消滅するとされています。

今回の改正により、このような商法のルールは、航空運送や複合運送にも適用されることになります。

(2)複合運送に関する特別な規律

複合運送は、陸上運送・海上運送・航空運送を組み合わせた運送ですので、実際の運送は、複数の運送区間に分かれることになります。

そのため、①荷物がどの運送区間で壊れたのかが判明した場合や、②それが判明しない場合に、どのようなルールで運送事業者に対して損害賠償請求をすることができるかが問題になります。そこで、今回の改正では、このような場合についての新たなルールを設けています。

具体的には、①荷物がどの運送区間で壊れたのかが判明した場合には、その運送区間に適用されるルール(例えば、海上運送区間で荷物が壊れた場合には、海上運送に適用されるルール)に従うことになり、②それが判明しない場合には、上記の運送全般についての共通ルールに従うことになります。

2 危険物についての通知義務に関する改正

現代の社会では、科学技術の発展に伴って危険物の種類が多様化し、また、封印されたコンテナによる運送が一般的になるなど、危険物の取扱いが困難になる中で、運送過程で危険物の取扱いを誤った場合の損害も、極めて大きなものとなっています。

しかし、商法には、荷物が危険物である場合の送り主の通知義務に関する規定はありませんでした。そこで、今回の改正では、危険物の適切な取扱いによる運送の安全確保を図るため、送り主は、荷物が危険物であるときは、荷物を引き渡す前までに、運送事業者に対し、危険物の安全な運送に必要な情報を通知しなければならないこととしています。

(1)危険物とは?

荷物を送る際に安全な運送に必要な情報を通知しなければならない「危険物」とは、具体的には、「引火性、爆発性その他の危険性を有するもの」をいいます。例えば、ガソリン、灯油、火薬類、高圧ガスなど、物理的に危険な荷物がこれに当たります。

事業者ではない一般の方が送り主になる場合であっても、このような荷物を送る場合には、運送事業者に安全な運送に必要な情報を通知する必要がありますので、注意が必要です。

(2)危険物に関する通知をしないと・・・

危険物に関する通知をしなかったことにより事故が発生し、運送事業者に損害が発生した場合には、送り主は、運送事業者に対する損害賠償責任を負うことになります。

ただし、送り主が、自分に落ち度はなかったことを証明した場合には、損害賠償責任を負うことはありません。

3 運送事業者の責任の消滅期間に関する改正

現代の社会では、物流量が著しく増大しており、運送事業者が取り扱う荷物の量も膨大なものとなっています。

しかし、商法では、運送事業者が運んだ荷物が壊れていた場合などには、運送事業者は、指定された受取人に荷物を引き渡してから最長で5年の間、その責任を負うと定められていました。今回の改正では、膨大な量の荷物を取り扱う運送事業者のリスク管理の観点から、運んだ荷物が壊れていた場合などにおける運送事業者の責任は、指定された受取人に荷物を引き渡してから一律1年で消滅することとしています(※)。

※ 消滅時効から除斥期間へ

今回の改正では、運送事業者の責任を消滅させる制度として、「除斥期間」の制度を採用しています。除斥期間の制度は、一定の期間の経過により当然に権利を消滅させるものであり、これまでの商法が採用していた「消滅時効」の制度とは異なり、消滅期間の進行が止まったり、消滅期間がリセットされたりすることがありません。

今回の改正後は、届いた荷物が壊れていた場合などに、運送事業者に対して損害賠償請求をしようとするときは、1年という期間制限を踏まえて対応する必要があるので、注意が必要です。

4 旅客運送事業者の免責特約の効力に関する規定の新設

これまで、主に物の運送(物品運送)について説明してきましたが、商法における運送には、タクシーやフェリー、旅客機などによる人の運送(旅客運送)もあります。

旅客運送で事故が起こった場合には、人の生命・身体という重要な利益が損なわれることになりますが、商法では、そのような場合に運送事業者を免責するような特約を規制する一般的なルールはありませんでした。そのため、事故が起こった際の賠償額を上限2300万円とする特約や、妊娠している方が乗船する場合に「乗船中に生じた問題については一切迷惑を掛けない」という趣旨の誓約書を求める事例が見られました。

今回の改正では、旅客の生命・身体という重要な利益に対する損害賠償が不当に制約されることを防止する観点から、運送全般についての共通ルールとして、運送中の事故で旅客が傷害を負った場合など、旅客の生命・身体が損なわれた場合の運送事業者の損害賠償責任を軽減したり、免除したりする特約は、原則として無効とすることとしています。ただし、真に必要な運送サービスを確保できなくなる事態を避けるなどの観点から、次のような例外を設けています。

  • 旅客列車の到着の遅れなど運送の遅延を主な原因として旅客の生命・身体が損なわれた場合
  • 被災地に救援物資を届ける人を運送する場合など、大規模な火災、震災その他の災害が発生し、又は発生するおそれがある場合に運送を行うとき
  • 転院のために重病患者を運送する場合など、運送に伴い通常生ずる振動などにより生命・身体に重大な危険が及ぶおそれがある者の運送を行う場合

商法を利用者に分かりやすいものとする観点からの改正(表記の現代用語化)

明治時代に制定された商法は、これまでの間にその一部が現代用語化されていたものの、依然としてその大部分が片仮名・文語体で表記されており、一般の利用者にとっては、商法の規定の意味を理解すること自体が容易ではありませんでした。

 そこで、今回の改正では、実質的なルールの改正を伴わないものも含め、片仮名・文語体で表記されていた商法の全ての規定を平仮名・口語体に改め、現代用語化することとしています。

 

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